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AIガバナンスとは?必要性と国内外規制・進め方を解説
// この記事を書いた人
株式会社Global Design Factory 代表取締役
高橋 遼
北海道大学工学部でAIによる自然言語処理を研究。P&Gにてビッグデータ解析・消費者分析を担当した後、伊良コーラのマーケティング責任者を経て、現在は株式会社Global Design Factory代表取締役として、中小企業を中心にAIを活用した業務効率化・自動化を支援。

生成AIの業務利用が急速に広がる一方で、「シャドーAI」による情報漏洩や誤情報の拡散など、AI活用に伴うリスクへの懸念も高まっています。こうした中、経営企画や情報システム、法務コンプライアンスの担当者からは「AIガバナンスを整備しなければ」という声が増えていますが、何から着手すべきか分からないという方も多いのではないでしょうか。本記事では、AIガバナンスの定義や必要とされる理由から、日本・海外の規制動向、実践的な構築プロセス、先進企業の事例、支援組織や認証制度までを体系的に整理します。読み終える頃には、自社のAIガバナンス整備の全体像と最初の一歩が見えてくるはずです。
AIガバナンスとは?定義と注目される背景
AIガバナンスとは、企業がAI(人工知能)を開発・提供・利用する際に、その信頼性や安全性を担保するための体制・ルール・仕組み全般を指す言葉です。単なる技術的な安全対策にとどまらず、経営体制の構築、社内規程の整備、従業員教育、外部との対話など、組織全体でAIと向き合うための「統治のあり方」そのものを意味します。
この言葉が急速に注目を集めるようになった背景には、生成AIの爆発的な普及があります。文章生成や画像生成、コード生成といった機能が業務の現場に浸透したことで、これまでは一部の専門部署だけが扱っていたAIが、営業・企画・バックオフィスなど、あらゆる職種の担当者にとって身近なツールになりました。
その結果、企業は次のような変化に直面しています。
- 現場の従業員が個人の判断でAIツールを導入・利用する「シャドーAI」的な状況が生まれやすくなったこと
- AIが出力する情報の正確性や公平性を、人間が都度検証しきれない場面が増えたこと
- 一つの企業内でも、部署ごとにAI利用のルールや水準がバラバラになりがちなこと
こうした状況を放置すると、情報漏洩や誤情報の拡散、意図しない差別的な出力といった問題が、経営層の把握しないところで発生しかねません。だからこそ、「誰が、どのようなルールで、どこまでAIの利用を許容するのか」を組織として定め、継続的に運用・見直しをしていくAIガバナンスの整備が、企業規模を問わず急務となっているのです。
次章では、ガバナンスを整備しないままAI活用を進めた場合に、企業がどのような具体的リスクにさらされるのかを詳しく見ていきます。
AIガバナンスが必要とされる理由と企業が直面するリスク
生成AIをはじめとするAI技術は、業務効率化や新規事業創出の面で大きな恩恵をもたらす一方で、適切な管理体制を欠いたまま導入を進めると、企業に深刻なリスクをもたらします。AIガバナンスが必要とされる最大の理由は、こうしたリスクを事前に把握し、コントロール可能な状態に置くことにあります。
Athena Technologiesは、AIガバナンスで対策すべきリスクとして、次の6種類を挙げています。
- セキュリティリスク:AIシステムへの不正アクセスや、悪意ある入力によるシステムの誤作動・情報搾取など、技術的な脆弱性に起因するリスクです。
- 倫理的なリスク:AIの学習データに含まれる偏り(バイアス)が、差別的な判断や不公正なアウトプットにつながるリスクです。採用選考や与信審査など、人の権利や機会に関わる領域で特に重視されます。
- 機能・品質のリスク:AIの出力結果が期待した精度や品質を満たさず、誤った判断や業務上のミスを招くリスクです。AIを過信した意思決定が、かえって業務品質を損なう恐れもあります。
- 情報漏洩のリスク:従業員が生成AIに機密情報や個人情報を入力してしまうことで、意図せず情報が外部に流出するリスクです。いわゆる「シャドーAI」(会社が把握・管理していないAIツールの私的利用)は、この情報漏洩リスクを高める要因として指摘されています。
- 誤情報拡散のリスク:AIが事実に基づかない内容をもっともらしく生成する、いわゆるハルシネーション(幻覚)によって、誤った情報が社内外に拡散してしまうリスクです。
- 著作権侵害のリスク:AIが学習データや生成物の過程で、既存の著作物を無断で利用・模倣してしまい、権利侵害につながるリスクです。
これらのリスクは、どれか一つだけを個別に対処すれば済むものではなく、互いに関連し合っている点に注意が必要です。たとえば品質の低いAI出力をそのまま社外に発信すれば誤情報拡散のリスクにつながり、それが著作権侵害を伴えば法的トラブルに発展する可能性もあります。リスクを個別対応で終わらせず、組織横断で管理する仕組みこそがAIガバナンスの本質だといえます。
また、Athena Technologiesは、こうしたリスクが特に顕在化しやすい規制産業(金融・医療・公共など)で生成AIを活用する際のポイントとして、以下の4点を挙げています。
- プライベートネットワークの活用による情報の隔離
- 障害発生時にも業務を止めない安定稼働体制の確保
- 入出力制限による公平性の担保
- 生成AI利用履歴の監視体制の構築
これらは規制産業に限らず、一般企業がAI活用のリスクを抑える上でも参考になる視点です。特に「利用履歴の監視体制」は、シャドーAIの発生を防ぎ、情報漏洩リスクを早期に察知するための土台になります。
このように、AIガバナンスが求められる背景には、AIの利便性の裏に潜む多層的なリスクの存在があります。次章では、こうしたリスクに対して日本国内でどのような法規制・ガイドラインが整備されてきたのか、その歴史と最新動向を整理します。
日本のAIガバナンスに関する法規制・ガイドラインの歴史と最新動向
日本のAIガバナンスは、特定の一本の法律で厳格に規制するのではなく、原則を示したうえで企業の自主的な取り組みを促す「ソフトロー」中心のアプローチで発展してきました。ここでは、その歩みを時系列で整理します。
2019年:すべての起点となった「人間中心のAI社会原則」
日本のAIガバナンス政策の起点とされているのが、2019年に内閣府が策定した「人間中心のAI社会原則」です。AIを利活用する社会において、人間の尊厳や多様性、持続可能性を尊重すべきという基本理念を打ち出したもので、以降の各種ガイドラインの土台となっています。
2021年:経済産業省による報告書とガイドラインVer1.0
2021年には、経済産業省が「我が国のAIガバナンスの在り方」と題する報告書を公表しました。この報告書を踏まえる形で、同年、企業が実際にAI原則を実践するための具体策として「AI原則実践のためのガバナンス・ガイドライン(Ver1.0)」が公表されています。抽象的な原則論から一歩進み、企業がどのような体制やプロセスでAIを運用すべきかを示した点が特徴です。
2022年:ガイドラインの改訂(Ver1.1)
翌2022年には、同ガイドラインが改訂され「Ver1.1」として公表されました。生成AIをはじめとするAI技術の急速な進化や、実際の企業運用で見えてきた課題を踏まえ、内容がアップデートされています。国のガイドラインが一度きりの策定で終わらず、継続的に見直される性質のものであることがうかがえます。
最新動向:「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」とIPAの役割
そして本記事執筆時点における最新の指針が「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」です。AI開発・提供・利用に関わる事業者を対象とした指針として位置づけられており、その運用や普及にはIPA(情報処理推進機構)が一定の役割を担っているとされています。経済産業省の特設ページでも、報告書・ガイドラインの整理に加え、検討会の動向やGPAI(Global Partnership on AI)といった国際的な取り組みとの連携についても情報が公開されており、国内政策が国際動向と切り離せない段階に入っていることが見て取れます。
企業の実務担当者としては、こうした国のガイドラインが「一度読んで終わり」の性質のものではなく、Ver1.0からVer1.1、そして第1.2版へと版を重ねてきたように、今後も改訂が続くことを前提に、定期的に最新情報をキャッチアップする体制を社内に持っておくことが重要です。
民間発の動き:JDLAによるAIガバナンス第三者認証「C認証」
国の政策と並行して、民間の業界団体による自主的な枠組みづくりも進んでいます。その一つが、一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)が創設したAIガバナンス第三者認証制度「C認証(AI Governance Core Certification)」です。この制度は2026年8月4日から運用が開始されており、比較的新しい取り組みといえます。
国のガイドラインが「事業者が守るべき考え方」を示すソフトローであるのに対し、C認証のような第三者認証制度は、企業が自社のAIガバナンス体制を客観的に証明する手段として機能する点に違いがあります。取引先や顧客に対して自社のAI活用の信頼性を示したい企業にとっては、今後こうした認証制度の活用も選択肢の一つになっていくと考えられます。認証制度の詳細な活用方法については、後述の「AIガバナンスを支える組織・認証制度」のセクションで改めて紹介します。
こうして振り返ると、日本のAIガバナンスは「原則の提示(2019年)→実践ガイドラインの策定と改訂(2021〜2022年)→最新版ガイドラインと第三者認証制度の登場」という流れで、原則論から実務・検証の段階へと着実にシフトしてきたことが分かります。次章では、視野を海外に広げ、EUや米国など主要地域の規制動向との違いを見ていきます。
海外のAIガバナンス規制動向(EU・米国・カナダなど)
AIガバナンスは日本国内だけの課題ではありません。グローバルに事業を展開する企業にとっては、進出先ごとに異なる法規制やガイドラインを把握し、自社のガバナンス体制に反映させることが欠かせません。IBMは、AIガバナンスを義務付ける規則の例として、EUのAI法、米国のSR-11-7、カナダの意思決定の自動化に関する指令、そしてアジア太平洋地域における規制・ガイドラインを挙げています。ここでは、それぞれの位置づけを整理します。
EU:AI法によるリスクベース規制
EUは「AI法(AI Act)」として、AIシステムを包括的に規律する法制度を整備している地域です。日本の各種ガイドラインの多くが企業の自主的な取り組みを促す性格を持つのに対し、EUのAI法は法的拘束力を伴う規制という点が大きな特徴です。グローバル展開する企業にとっては、EU域内でAIを提供・利用する場合に、どのようなリスク区分に該当するのかを見極め、法令遵守の観点からガバナンス体制を組み立てる必要があります。
米国:業界別・分野別のガイドライン
米国は、EUのような包括的なAI単独法ではなく、業界や分野ごとに個別のガイドラインや規則が積み重なっている点が特徴です。IBMが例に挙げるSR-11-7は、もともと金融機関のモデルリスク管理を対象とした規則であり、AIモデルの検証やリスク評価の考え方が、生成AI時代のガバナンスにも援用されています。業界特有の規制と整合させながら自社のAI活用ルールを設計する姿勢が、米国市場では求められます。
カナダ:政府部門における自動化意思決定の指針
カナダは、政府による自動化された意思決定の運用に関する指令を整備しています。行政機関がAIを用いて意思決定を行う場面を念頭に置いた指針であり、公共性の高い領域でのAI活用における透明性や説明責任を重視する姿勢がうかがえます。カナダに拠点を置く企業や、公共部門向けにAIサービスを提供する企業にとっては、押さえておきたい論点のひとつです。
アジア太平洋地域:多様な規制・ガイドラインの併存
アジア太平洋地域については、EUのような単一の統一的な法制度ではなく、各国・各地域がそれぞれの事情に応じた規制やガイドラインを策定している段階です。IBMもこの地域を「規制・ガイドライン」という幅を持たせた表現で紹介しており、国ごとの制度差が大きいことがうかがえます。域内で複数国に展開する企業は、進出国ごとの動向を個別に確認する体制が必要です。
グローバル展開企業が押さえるべき視点
日本のAI事業者ガイドラインが自主的な取り組みを基調とするのに対し、EUのAI法のように法的拘束力を持つ規制が存在する地域もあれば、米国のように業界別の規則が積み重なる地域、カナダのように公共部門を対象にした指針が中心の地域もあり、規制のあり方は地域ごとに大きく異なります。グローバル展開企業には、こうした規制の性格の違いを踏まえ、進出先の規制の厳格さや対象範囲に応じて、自社のAIガバナンス方針を地域ごとに調整する視点が求められます。国内の規制動向とあわせて海外の規制の全体像を把握しておくことが、次章で紹介する実践プロセスの土台にもなります。
企業が実践すべきAIガバナンス構築のプロセスとフレームワーク
AIガバナンスの必要性やリスクを理解したうえで次に問われるのは、「では自社では具体的に何から手をつければよいのか」という実務上の課題です。ここでは、LRM株式会社が提示する循環型プロセスと、大和総研が提示する実務フレームワークを軸に、企業がAIガバナンスを構築していくための進め方を整理します。
環境・リスク分析からゴール設定、システムデザイン、運用、評価までの循環プロセス
LRM株式会社は、企業が実践すべきAIガバナンスの進め方として、次の6つのステップからなる循環型プロセスを提示しています。
- 環境・リスク分析:自社がAIをどのような業務・目的で利用しているか(あるいは利用しようとしているか)を棚卸しし、そこに潜むリスクを洗い出すステップです。
- ゴール設定:分析結果をもとに、AI活用によって達成したい目標と、ガバナンス上守るべきラインを定めます。
- システムデザイン:ゴールを実現するための体制・規程・技術的な仕組みを設計します。
- 運用:設計した仕組みを実際の業務に落とし込み、日々のAI利用の中で機能させます。
- 評価:運用状況を検証し、想定通りに機能しているか、新たな課題は生じていないかを確認します。
- 環境・リスクの再分析:評価結果を踏まえて、再び環境・リスク分析に戻り、プロセス全体を回し続けます。
このプロセスの特徴は、一度体制を構築して終わりにするのではなく、評価から再分析へと循環させる点にあります。生成AIをはじめとするAI技術は進化のスピードが速く、社会的な受容や規制の状況も変化し続けるため、ガバナンスの仕組みも一度作ったら固定するのではなく、継続的に見直していく姿勢が求められます。
また、大和総研はこのようなプロセスを支える実務フレームワークとして、次の6つの重点施策を挙げています。
- AI倫理の策定・公表
- AI開発・提供・利用ガイドラインの策定
- 社内推進体制の整備
- 社内の人材育成
- 第三者による客観的な評価・意見交換の場作り
- AIガバナンスの評価・監視体制の整備
LRMが示す循環プロセスが「どういう順番で進めるか」という時間軸の整理だとすれば、大和総研の6施策は「各ステップで具体的に何を用意すべきか」という要素の整理といえます。両者を組み合わせることで、自社のAIガバナンス構築を「進め方」と「中身」の両面から具体化しやすくなります。
AIガバナンス構築で意識したい4つの視点
プロセスや施策を形だけ整えても、根底にある考え方がずれていると実効性のあるガバナンスにはなりません。大和総研は、AIと共生する時代に必要なAIガバナンス構築の要所として、次の4つの視点を挙げています。
- スモールスタート:最初から全社一斉・全業務を対象にした完璧な仕組みを目指すのではなく、影響範囲を限定した小さな取り組みから始め、知見を蓄積しながら段階的に拡大していく考え方です。
- リスクベース・アプローチ:すべてのAI利用を一律のルールで縛るのではなく、リスクの大きさに応じて管理の強度を変える考え方です。前章で整理したセキュリティ・倫理・品質・情報漏洩・誤情報・著作権といったリスクの種類や深刻度を踏まえ、優先度をつけて対応することが実務上の負担軽減にもつながります。
- マルチ・ステークホルダー:情報システム部門や法務部門だけでなく、経営層・事業部門・従業員・場合によっては社外の専門家など、多様な関係者を巻き込んで議論・意思決定を行う考え方です。
- アジャイル・ガバナンス:一度定めたルールを固定的に運用するのではなく、技術動向や社会情勢の変化に応じて、ガイドラインや体制そのものを機動的に見直し続ける考え方です。
これら4つの視点は、先に紹介した循環型プロセスの「評価→再分析」という流れとも密接に結びついています。スモールスタートで着手し、リスクベースで優先順位をつけ、多様な関係者を巻き込みながら、状況の変化に応じてアジャイルに見直す。この姿勢そのものが、AIガバナンスを一過性の取り組みではなく、組織に根づいた継続的な仕組みへと育てていく土台になります。
次章では、こうしたプロセスや視点を実際にどのような体制・指針として形にしているのか、先進企業の具体的な取り組みを見ていきます。
先進企業に見るAIガバナンスの取り組み事例
AIガバナンスの構築プロセスやフレームワークを理解しても、実際に自社でどこまで体制を作り込めばよいのか、イメージが湧きにくいという方は多いのではないでしょうか。ここでは、実在する企業がどのような体制・指針・教育を敷いているのかを横並びで紹介します。自社の体制設計を検討する際の参考にしてみてください。
東芝:品質保証と人材育成を両輪にした取り組み
東芝は「東芝グループAIガバナンスステートメント」を掲げ、AIガバナンスを次の4つの枠組みで捉えています。
- AI人材の育成
- AI技術の開発・利活用
- AIシステムの品質の維持・向上(AI品質保証・MLOps基盤)
- 事業への適切なAI適用
特徴的なのは、AI品質保証やMLOps基盤といった技術的な仕組みを、人材育成や事業適用と同列の柱として位置づけている点です。ガバナンスを「守りのルール」だけでなく、AIシステムの品質を継続的に維持・向上させる仕組みとして組み込んでいる点は、製造業やシステム開発を手がける企業にとって参考になる構成といえます。
大和証券グループ本社:指針とリスク評価体制のセット運用
大和証券グループ本社は、AIガバナンスの取組みとして以下を公表しています。
- ガバナンス体制の整備
- リスク評価体制の構築
- 従業員教育の実施
- 「大和証券グループ AIガバナンス指針」の策定
金融業という規制産業の性質上、体制・リスク評価・教育・指針という要素を一体で運用している点が特徴です。指針を策定するだけでなく、それを支えるリスク評価体制と教育をセットで整えることで、指針が形骸化しないようにしている構成といえるでしょう。
ソフトバンク:責任者を明確化した推進体制
ソフトバンクは、AI倫理・ガバナンスの体制として「AIガバナンス最高責任者」と「AI倫理委員長」というポジションを設置し、AI倫理委員会を運営しています。あわせて、次のような取り組みを進めています。
- リスクベースアプローチによる対応の優先順位づけ
- 従業員向けの教育
- ステークホルダーとの連携
「誰がAIガバナンスの最終責任を持つのか」を役職として明確化している点は、体制構築の初期段階でつまずきやすい企業にとって、特に参考になるポイントです。責任の所在があいまいなままでは、リスクベースアプローチも教育も実効性を持ちにくいため、まず責任者を明確にするという発想は多くの企業に応用できます。
金融業界での外部支援の活用例
自社単独での体制構築が難しい場合、外部の専門機関の支援を受けながらAIガバナンスを高度化する動きも見られます。たとえば、みずほフィナンシャルグループはKPMGジャパンの支援を受けながらAIガバナンスの高度化に取り組んでいることが、KPMGのニュースリリースで公表されています。自社にノウハウが十分に蓄積されていない段階では、こうした外部の知見を活用する選択肢も検討に値します。
これらの事例に共通するのは、「体制」「指針」「教育」という要素を単独で整備するのではなく、組み合わせて運用している点です。次章では、こうした企業単独の取り組みを補完する、業界団体や認証制度といった社外リソースについて見ていきます。
AIガバナンスを支える組織・認証制度
AIガバナンスは、自社内の体制構築やガイドライン整備だけで完結するものではありません。業界横断の知見やお墨付きを得られる社外の枠組みを併用することで、自社の取り組みの妥当性を客観的に補強できます。ここでは、代表的な業界団体と認証制度を2つご紹介します。
一般社団法人AIガバナンス協会
一般社団法人AIガバナンス協会(AI Governance Association)は、2024年10月1日に設立された業界団体です。主なミッションとして、次のような活動を掲げています。
- 企業のあるべきAIガバナンスに関する共通理解の醸成
- 「AIガバナンス行動目標」の浸透
- 会員相互の情報共有機会の創出
- AIに関する政策提言
- 認証制度等の中長期的な枠組みの検討
自社だけでは判断が難しい「業界としての標準的な水準」を把握したい企業にとって、こうした団体への参加や情報収集は、ガバナンス整備の指針を得る手段の一つになります。
JDLAの第三者認証制度「C認証」
もう一つ注目したいのが、一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)が創設したAIガバナンス第三者認証制度「C認証(AI Governance Core Certification)」です。2026年8月4日から運用が開始されており、制度導入の背景や対象、申請方法・費用・有効期間、認定コンサルティング企業といった枠組みが設けられています。
自社のAIガバナンス体制が一定の水準を満たしていることを外部に示せる認証制度は、取引先や株主への説明責任を果たすうえでも有効です。今後、こうした第三者認証を取得する企業が増えていけば、AIガバナンスの巧拙が取引条件や信頼性評価の指標として扱われる場面も出てくると考えられます。自社の体制構築と並行して、こうした社外リソースの動向にもアンテナを張っておくことをおすすめします。
まとめ
AIガバナンスとは、AIの信頼性・安全性を担保するための体制やルールを組織全体で整える取り組みです。生成AIの普及に伴い、セキュリティや情報漏洩、著作権侵害など多層的なリスクが顕在化しており、国内では原則の提示から実践ガイドライン、第三者認証制度へと段階的に整備が進んでいます。海外ではEUの法規制や米国の業界別ガイドラインなど、地域ごとに異なる対応が求められます。実践にあたっては、LRM社の循環型プロセスや大和総研の4つの視点を参考に、スモールスタートとリスクベースの発想で進めることが重要です。東芝・大和証券・ソフトバンクなどの事例も参考にしながら、まずは自社の体制構築とガイドライン策定から着手してみてはいかがでしょうか。
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