// ARTICLE
AI for Science公募とは?SPReAD・ARiSEの違いと最新動向
// この記事を書いた人
株式会社Global Design Factory 代表取締役
高橋 遼
北海道大学工学部でAIによる自然言語処理を研究。P&Gにてビッグデータ解析・消費者分析を担当した後、伊良コーラのマーケティング責任者を経て、現在は株式会社Global Design Factory代表取締役として、中小企業を中心にAIを活用した業務効率化・自動化を支援。

文部科学省が推進する「AI for Science」関連の公募は、SPReAD・ARiSE・計算資源の戦略的増強と複数の施策が並行しており、「どれに応募すればよいのか分からない」と感じる研究者や事務担当者も多いのではないでしょうか。本記事では、これら複数の公募を1本に整理したうえで、SPReADの第1回・第2回公募における採択実績(採択率・倍率)や対象経費、ARiSEとの違い、相談先までを一次情報ベースでまとめます。読み終えるころには、自分がどの公募を目指すべきか、そして次にどう動けばよいかが明確になります。
「AI for Science」公募とは?文部科学省が進める研究革新プログラムの全体像
「AI for Science」とは、AI(人工知能)を科学研究そのものの手段として活用し、研究の質とスピードを飛躍的に高めようとする文部科学省の政策的な取り組みです。2026年3月31日には「AI for Scienceの推進に向けた基本的な戦略方針」が策定され、この方針に基づいて「AI for Scienceによる科学研究革新プログラム」という大枠のプログラムが動き出しています。
このプログラムの特徴は、単発の補助金ではなく、複数の公募・事業を組み合わせた重層的な構成になっている点です。文科省はこのプログラムのもと、5年間で3,000人以上のAI高度研究人材を育成・確保することを目標に掲げており、そのために性格の異なる複数の施策を並行して展開しています。
具体的には、次の3つが「AI for Science公募」として押さえておきたい柱です。
- SPReAD(AI for Science萌芽的挑戦研究創出事業):個人の研究者を対象に、AIを活用した萌芽的・挑戦的な研究を幅広い分野から募る事業です。旧称は「チャレンジ型」と呼ばれていました。
- ARiSE(AI for Science革新的研究推進事業):AIを専門とする研究者と各分野の研究者が共同で提案する、より戦略性の高い「フラグシップ事業」です。
- 計算資源の戦略的増強:研究現場でAIを活用するために不可欠な計算基盤(HPCIなど)を拡充する事業です。
これらは名称が似ているため混同されがちですが、対象者や目的、実施主体が異なります。「自分(あるいは所属研究者)はどの公募に応募すべきか」を判断するには、まずこの全体像を頭に入れておくことが近道です。次のセクションからは、まず個人研究者にとって最も応募のハードルが低いSPReADについて、対象分野・応募資格・補助額といった基本条件から順に見ていきます。
SPReAD(AI for Science萌芽的挑戦研究創出事業)の対象・補助額をチェック
SPReADという名称は「Supporting Pioneering Research through AI for 1,000 Discovery challenges」の頭文字を取ったもので、正式名称は「AI for Science萌芽的挑戦研究創出事業」です。かつては「チャレンジ型」という通称で呼ばれていた事業でもあり、複数の呼び方が混在しているため、公募情報を探す際は名称の違いに注意が必要です。
対象となる研究分野・応募資格
SPReADの大きな特徴は、対象分野を限定していない点です。人文学・社会科学から自然科学まで、あらゆる分野の研究者等が応募対象となっており、AI分野の専門家に限らず、幅広い研究者に開かれた公募設計になっています。
応募の形式面では、次のようなポイントを押さえておく必要があります。
- 研究代表者個人で行う研究計画が対象であり、グループ申請ではなく個人単位の申請が基本となっています。
- 学生も応募可能で、実際に多くの学生応募が集まっています(詳細な件数は後述のH2で扱います)。
- 神戸大学URAの案内によれば、学生が申請する場合は指導教員の許可を得たうえで申請する必要があるとされており、所属機関のルール確認も欠かせません。
「自分の研究分野がAI活用向きかどうか分からない」という声もありますが、対象分野を絞っていない設計である以上、AIを研究プロセスに取り入れるアイデアさえあれば応募を検討する価値があります。
補助上限額と採択予定件数
補助額の面では、SPReADは「少額多数」を志向した設計になっています。
- 補助上限額は1課題あたり500万円以下(直接経費)で、これとは別に間接経費として30%が配分される予定です。
- 2回の公募を通じて、計1,000件程度の採択を予定しています。
1課題あたりの金額は大型研究費に比べると控えめですが、その分、萌芽的なアイデアや初めてAIを研究に取り入れる挑戦を後押ししやすい制度設計といえます。1,000件という採択予定件数の規模感は、幅広い分野・立場の研究者に門戸を開くというSPReADの狙いを反映したものです。ただし、実際の応募が集中した場合の採択率や倍率については、次のセクションで扱う第1回・第2回の実績データとあわせて確認することをおすすめします。
SPReAD公募のスケジュールと採択実績(第1回・第2回)
SPReADは2026年に入ってから第1回・第2回と続けて公募が実施されており、その応募状況からは非常に高い競争率がうかがえます。ここでは、各回の応募件数・採択件数・スケジュールを時系列で整理します。
第1回公募の結果
第1回公募には15,868件もの応募が寄せられ、このうち学生による応募も2,624件含まれていました(grant-search.com、文科省PDF)。これに対して採択されたのは456件(うち学生61件)で、採択割合は全体で2.9%、学生では2.3%にとどまっています(同出典)。
2026年6月22日の記者会見では、松本文部科学大臣が本公募の倍率について「約35倍」と説明しており(grant-search.com)、数字だけを見ても狭き門であったことが分かります。また、同時期に公表された採択結果では、採択機関数は164機関に上りました(umt.jp)。
第1回公募で採択された課題の研究期間は、交付決定日から令和9年1月6日(水)までとされていました(文科省公式)。
第2回公募の結果と今後のスケジュール
第2回公募は令和8年6月2日(火)から7月3日(金)正午までの期間で実施されました(文科省PDF・文科省公式)。応募課題数は17,914課題(うち学生3,263課題)で、第1回の15,868課題からさらに増加しており、AI for Scienceへの関心の高まりがうかがえます(文科省PDF)。
第2回公募の採択課題は2026年8月18日に公表されました。これにあわせて、交付申請・決定を令和8年9月中旬まで、研究期間を交付決定日から令和9年2月19日(金)までとするスケジュール変更が発表されています(文科省公式)。第1回の研究期間終了時期(令和9年1月6日)と比べると、第2回採択者はやや余裕を持ったスケジュールで研究に取り組める形です。
なお、いずれの回で採択された課題も、会計実績報告書および成果報告書の提出期限は令和9年3月上旬までと定められています(文科省公式)。
このほか、事業全体としてのコミュニティ形成の取り組みとして、7月下旬に第1回公募採択者向けキックオフ、8月上旬にAI活用学び合い会(初心者向け相談会)、8月下旬に第2回公募採択者向けキックオフがそれぞれ予定されています(文科省PDF)。応募から採択後のフォローアップまで、一連の流れが年間を通して組まれている点も、SPReADの特徴といえます。
SPReADの応募方法・対象経費・注意点
SPReADへ応募する際は、まず申請方法を正しく理解しておくことが重要です。ここでは、e-Radを使った申請の流れ、対象となる経費・対象外の経費、そして書類提出時に見落としやすい注意点を整理します。
申請はe-Radを通じて行う
SPReADの応募は、府省共通研究開発管理システム「e-Rad」を通じて行います。所属機関によっては研究協力部門などがe-Radの操作サポートを行っている場合もあるため、初めて利用する場合は事前に所属機関の担当窓口へ確認しておくと安心です。
なお、第1回公募で不採択となった場合でも、第2回公募へ再度申請することが可能です。テーマや申請書の内容をブラッシュアップして再チャレンジできる仕組みになっているため、一度の不採択で諦める必要はありません。
対象経費と対象外経費を確認する
SPReADの対象経費として認められているのは、主に次のようなものです。
- 計算資源に係る経費
- データ取得・利用料
- API利用料
- ロボットアーム等の設備費
- データ整理・確認作業に係る謝金
一方で注意したいのは、人件費が対象外となっている点です。研究代表者や共同研究者本人の人件費に充当することはできないため、予算計画を立てる際は計算資源やデータ関連費用を中心に組み立てる必要があります。
採択後の提出書類にも注意
採択が決定した後は、交付申請手続きの中でいくつかの追加書類の提出が求められます。具体的には、
- 研究データマネジメントプラン及びチェックリスト
- 研究倫理教育・コンプライアンス教育受講に関する文書
- 機関等向けのAI利活用に係る研究データの取扱いに関するチェックリスト
といった書類が必要です。採択されて安心するのではなく、交付決定までにこれらの書類を漏れなく準備しておくことが、研究をスムーズに開始するための鍵になります。応募前の段階から、これらの提出物がどのようなものかを把握しておくと、採択後の対応が格段にスムーズになります。
ARiSE・計算資源の戦略的増強との違い
「AI for Science」関連の公募は、SPReADだけではありません。ここでは、混同されやすい「ARiSE」と「計算資源の戦略的増強」事業について、目的や対象者の違いを整理します。
ARiSE(AI for Science革新的研究推進事業)とは
ARiSEは、文部科学省の「AI for Scienceの推進に向けた基本的な戦略方針」に定められた具体的アクションを先導する、いわば「フラグシップ事業」です。日本の強みを活かせる戦略ターゲットへの集中投資と、世界トップレベルの研究機関・研究者との戦略的な国際連携などの推進を目的としており、JST(科学技術振興機構)公式サイトによれば、研究タイプは「戦略ターゲット型」と「国際・融合型」の2種類に分かれています。
特徴的なのは提案の仕組みです。AIを専門とする研究者と、AIの活用先となる研究分野の研究者が「共同代表者」として一緒に提案する形になっており、研究代表者が個人で申請するSPReADとは応募の枠組みそのものが異なります。また、実施主体もSPReAD(文部科学省・配分機関)とは別に、JSTが担っている点も見逃せないポイントです。
このため、「一人でスモールスタートしたい」「まずは萌芽的な研究アイデアを試したい」という研究者はSPReAD、「AI専門家と分野専門家がチームを組み、大きなインパクトを狙いたい」という研究者はARiSE、という大まかな棲み分けで考えると判断しやすくなります。
計算資源の戦略的増強とは
もう一つの関連事業が「AI for Scienceに不可欠な計算資源の戦略的増強」です。これは個々の研究者向けの研究費公募というより、計算基盤そのものを強化する事業で、北海道大学・筑波大学・東京大学・九州大学の各センターの計画が採択されています。革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)を通じた計算資源の共用拡充が目的とされており、SPReADで採択された研究者が計算資源を利用する際の受け皿の一つになると考えられます。
自分に合う公募を選ぶ視点
3つの公募・事業は、いずれも「AI for Science」という同じ戦略方針のもとにありますが、対象者と役割は明確に異なります。個人で萌芽的な研究に挑戦したいならSPReAD、AI専門家とのチーム体制で戦略的な研究を推進したいならARiSE、そして計算基盤の利用を検討する場合は各拠点のセンターが提供する計算資源増強事業を確認する、という整理で自分の立ち位置を判断すると良いでしょう。
SPReAD採択を目指す研究者が押さえておきたいポイントと相談先
これまで見てきたとおり、SPReADは第1回公募だけで採択割合が全体2.9%、松本文部科学大臣が記者会見で「倍率約35倍」と説明するほどの高い競争環境です。限られたチャンスを活かすためには、公式情報を活用した事前準備と、相談できる窓口の確保が欠かせません。
説明会への参加は必須級
文部科学省は、研究者向け・計算資源提供者向けの説明会を複数回オンラインで開催しています。開催3時間前まで申し込みが可能で、当日の内容の一部はアーカイブ配信もされるため、多忙な研究者や事務担当者でも参加しやすい設計になっています。応募資格や対象経費の細かい解釈で迷った場合は、まずこうした説明会で最新の一次情報を確認するのが確実です。
所属機関の研究協力部門・URAへの相談
名古屋大学や神戸大学など、複数の大学の研究協力部門・URAがSPReADに関する独自の案内ページを整備しています。所属機関に同様の窓口がある場合は、e-Radでの申請手続きや学内締切、指導教員の許可取得といった実務面で早めに相談しておくと安心です。
民間の支援サービスも選択肢に
近年は、AI研究向け設備一式の提案を行う企業や、公募の要点を解説する動画・無料相談を提供するサービスなど、SPReAD申請者を後押しする民間支援も登場しています。学内リソースだけでカバーしきれない部分は、こうした外部サービスの活用も検討の余地があります。
コミュニティ形成の機会も活用
事業側では採択者向けのキックオフや、AI活用初心者向けの学び合い会といったコミュニティ形成の場も用意されています。採択後の研究推進や、次回以降の申請に向けた情報収集の場としても役立てられます。
第1回で不採択でも第2回に再挑戦できる仕組みがある以上、早めの情報収集と相談窓口の確保が、次のチャンスをつかむ近道といえます。
まとめ
「AI for Science」関連の公募は、個人研究者向けのSPReAD、AI専門家と分野専門家が共同提案するARiSE、そして計算基盤を強化する計算資源の戦略的増強という、性格の異なる3つの柱で構成されています。SPReADは第1回で採択割合2.9%・倍率約35倍という高い競争率でしたが、第2回でも17,914課題もの応募が集まり、関心の高さがうかがえます。人件費が対象外である点や、採択後に求められる提出書類など実務面の注意点も押さえておくことが重要です。まずは自分の立場がSPReAD向きかARiSE向きかを見極め、文科省の説明会や所属機関の研究協力部門・URAへの相談を通じて、次回公募に向けた準備を早めに進めてみてください。
// TOPICS


