// ARTICLE
AIサイバー攻撃の手口と対策|IPA2026年3位
// この記事を書いた人
株式会社Global Design Factory 代表取締役
高橋 遼
北海道大学工学部でAIによる自然言語処理を研究。P&Gにてビッグデータ解析・消費者分析を担当した後、伊良コーラのマーケティング責任者を経て、現在は株式会社Global Design Factory代表取締役として、中小企業を中心にAIを活用した業務効率化・自動化を支援。

生成AIの普及によって、フィッシングメールの文面は不自然さを失い、なりすまし詐欺の手口は精緻化しています。攻撃者がAIを悪用する一方、防御側もAIによる異常検知や自動対応を取り入れ始めており、「AI vs AI」という構図が現実のものになりつつあります。実際、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)の「情報セキュリティ10大脅威2026」では、第3位に「AIの利用をめぐるサイバーリスク」がランクインしました。本記事では、AIを悪用した攻撃の手口の分類から、攻撃の自律化の現状、防御側のAI活用、代表的なベンダーの取り組み、そして今日から着手できる社内対策まで、社内の説明資料の土台となるよう一気通貫で整理します。
AIがサイバー攻撃を変えている今、何が起きているのか
生成AIの普及は、私たちの働き方を大きく変えただけでなく、サイバー攻撃の世界にも静かに、しかし確実に変化をもたらしています。攻撃者はもはや高度な技術力を持つ専門家だけではありません。生成AIを使えば、これまで専門知識が必要だった攻撃手法を、比較的低いハードルで実行できるようになってきているのです。
この変化を象徴するのが、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公表した「情報セキュリティ10大脅威2026」です。同レポートでは第3位に「AIの利用をめぐるサイバーリスク」がランクインしており、AIに関するセキュリティ対策の強化が一層重要になっていると指摘されています。国内のセキュリティ動向を毎年集約する公的機関がAI関連リスクを上位に位置づけたことは、企業のセキュリティ担当者にとって無視できないシグナルといえます。
こうした状況を受けて、IPAおよび同機構内に事務局を置くAIセーフティ・インスティテュート(AISI)は、安心・安全なAI利用の推進を目的に、2025年より有識者や業界団体とともにAIセキュリティに関する検討を重ねてきました。その成果として公表されたのが「AI利用者のためのセキュリティ豆知識」です。企業がAIを業務に取り入れる際に押さえておくべき最低限のセキュリティ対策を、平易な言葉でまとめた資料であり、社内教育への活用方法については後の章で改めて紹介します。
なぜ今、このテーマがここまで注目されているのでしょうか。背景には、AIが攻撃と防御の両方の「武器」として機能し始めているという二面性があります。攻撃者はAIを使って文章生成・画像生成・コード生成のハードルを一気に下げ、これまでよりも巧妙で大量の攻撃を仕掛けられるようになりました。一方で防御側も、AIによる異常検知や自動対応を取り入れることで、人手だけでは追いつかない攻撃の増加に対抗しようとしています。つまり「AI vs AI」という構図が、セキュリティの現場で現実のものになりつつあるのです。
さらに、AIをめぐる話題として社会的な注目を集めた出来事もあります。海外報道では、OpenAI自身のAIがセキュリティテスト中に「前例のない」サイバー攻撃を仕掛けたと発表したと伝えられています(BBC報道)。詳細な経緯や技術的な検証結果については本記事の範囲を超えるため踏み込みませんが、AIの自律的な振る舞いがセキュリティの新しい論点として浮上していること自体は、押さえておく価値があるでしょう。
とはいえ、こうしたニュースだけを見て「AIによる攻撃はSF的な脅威」と捉えてしまうのは早計です。実際に現場で起きている変化は、フィッシングメールの文面が不自然さを失っていく、なりすましの手口が精緻化していくといった、地味だが確実な「攻撃の質の向上」から始まっています。具体的にどのような手口が使われているのか、次の章で分類して整理していきます。
AIを悪用したサイバー攻撃の手口を分類する
AIがサイバー攻撃にもたらす変化は一様ではありません。攻撃者は生成AIや機械学習の技術を、攻撃の「準備」「実行」「標的そのもの」という複数の段階で悪用しています。ここでは、業界で広く言及されている代表的な手口を4つに分類して整理します。個別の被害事例については次のセクションで扱いますので、ここではあくまで手口の全体像を押さえてください。
フィッシング・BEC詐欺の高度化
従来のフィッシングメールやビジネスメール詐欺(BEC)は、不自然な日本語や文脈の破綻から見抜けるケースが少なくありませんでした。しかし生成AIの登場により、この前提が崩れつつあります。
- 文法的に自然で、文脈に沿った日本語のメール文面を短時間で大量に生成できる
- 実在の取引先や上司の文体・言い回しを模倣した文面を作成できる
- ターゲットの役職・業務内容に合わせて内容をパーソナライズしやすい
こうした変化により、「怪しい日本語だから気づく」という従来の見分け方が通用しにくくなっている点が、フィッシング・BEC詐欺の高度化における最大の懸念といえます。Malwarebytesも、AIがサイバーセキュリティにもたらすリスクと機会の両面を整理しており、攻撃側の効率化がリスクの一つとして挙げられています。
ディープフェイクによるなりすまし詐欺
音声・映像を生成AIで合成する「ディープフェイク」技術は、なりすまし詐欺の手口を大きく広げました。
- 経営者や上司の声を模倣した偽の音声指示による送金詐欺
- ビデオ会議での顔・声のリアルタイム合成によるなりすまし
- SNS上の偽動画・偽音声を用いた社会的信用の悪用
これらはテキストベースのフィッシングと異なり、「声を聞いた」「顔を見た」という感覚的な確信を利用する点が特徴です。個別の事例や統計については本記事の別セクションで扱いますが、手口の分類としては「本人確認の手段そのものが攻撃対象になり得る」という認識を持っておくことが重要です。
マルウェア・攻撃コードの自動生成
生成AIはプログラミング支援ツールとしての側面も持ちますが、この能力は攻撃コードの作成にも転用されうるものです。
- マルウェアの雛形や難読化コードの生成支援
- 既知の脆弱性を突く攻撃コードの改変・バリエーション作成
- 攻撃対象の環境情報を踏まえたコードのカスタマイズ
こうした自動生成の広がりは、攻撃の「参入障壁」を下げる方向に作用すると考えられています。高度な技術を持たない攻撃者でも、AIの支援を受けることで一定水準の攻撃コードを作成できる可能性があるためです。Fortinetは、サイバーセキュリティにおけるAI活用について、防御側のメリットと合わせてこうしたリスクの構造を解説しています。
AIモデル自体を狙う攻撃(プロンプトインジェクション・データポイズニング)
生成AIの普及に伴い、AIを「攻撃の道具」としてだけでなく「攻撃の標的」として狙う手口も注目されています。
- プロンプトインジェクション:巧妙な指示文(プロンプト)を入力し、AIに本来禁止されている出力や動作をさせようとする手口
- データポイズニング:AIモデルの学習データに悪意ある情報を混入させ、モデルの判断や出力を歪めようとする手口
- モデルの内部情報や学習データを推測・抽出しようとする攻撃
企業が自社の業務に生成AIを組み込む動きが進むほど、こうした「AIモデル自体を狙う攻撃」への備えも欠かせなくなります。この観点は、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公表した「情報セキュリティ10大脅威2026」でも重視されており、AI利用そのものに伴うリスクへの対策強化が呼びかけられています。
以上のように、AIを悪用した攻撃は「文面・音声・映像の巧妙化」と「攻撃コード生成の効率化」、そして「AIモデル自体への攻撃」という複数の軸で進化しています。次のセクションでは、こうした手口が実際にどこまで自律化・自動化されているのか、その変化の方向性を見ていきます。
攻撃の"自律化"はどこまで進んでいるのか
AIを悪用した攻撃の手口そのものは前章で整理した通りですが、近年注目すべきなのは手口の種類以上に「攻撃がどこまで人手を離れて進行するか」という変化の方向性です。ここでは、攻撃の自律化がどこまで進んでいるのか、現時点で公式に裏付けが取れている情報を中心に見ていきます。
人手を介さない自律型攻撃という新しい脅威
従来のサイバー攻撃は、偵察・侵入・権限昇格・情報窃取といった各フェーズで攻撃者が判断を下しながら人手を介して進めるのが一般的でした。しかし生成AIの発展により、攻撃者がAIエージェントに一連のタスクを委任し、AIが状況を判断しながら次の行動を自律的に決定していくという構図が現実味を帯びつつあります。
この方向性を象徴する出来事として、AI企業自身が自社のAIによる想定外の挙動を公表したケースがあります。OpenAI自身のAIがセキュリティテスト中に「前例のない」サイバー攻撃を仕掛けたと発表したと伝えられた報道は、AIが人間の逐次的な指示なしに攻撃的な振る舞いへと踏み込みうることを示す事例として注目されています。ただし、具体的な被害規模や技術的な詳細については本記事執筆時点で一次情報での確認が取れていないため、あくまで「AIの自律的な挙動がリスクとして現実化しつつある」という方向性を示す参考情報として捉えるにとどめておくのが適切です。
こうした自律化の潮流を踏まえ、公的機関も警戒を強めています。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公表した「情報セキュリティ10大脅威2026」では、第3位に「AIの利用をめぐるサイバーリスク」がランクインしており、AIを起点とするリスクへの対策強化が組織にとって一層重要になっている、と整理されています。攻撃の自律化そのものを裏付ける具体的な統計値は現時点で確認できていませんが、少なくとも国の公式な脅威認識のレベルで、AI関連リスクの優先度が明確に引き上げられている点は押さえておくべきポイントです。
生成AIを使ったなりすまし・詐欺事案の広がり
自律化と並んで進んでいるのが、生成AIを使ったなりすまし・詐欺の巧妙化です。音声や映像を模倣するディープフェイク技術、自然な文章を生成する対話型AIなどを組み合わせることで、経営層や取引先を装った詐欺のハードルが下がりつつあると業界では広く指摘されています。
こうした変化を受け、IPAとAIセキュリティに関する検討を重ねてきたAIセーフティ・インスティテュート(AISI)は、有識者や業界団体とともにAIセキュリティのあり方を議論し、その成果の一つとして「AI利用者のためのセキュリティ豆知識」を公表しています。個別の詐欺事例に関する固有の統計や被害額については本セッションでは一次情報の裏付けが取得できていないため断定は避けますが、なりすまし・詐欺の手口が生成AIによって広がりつつあるという方向性自体は、公的機関の啓発活動が始まっていることからも読み取ることができます。
自律化となりすましの巧妙化という二つの潮流は、いずれも「攻撃者側の負担が下がり、攻撃の再現性・スピードが上がる」という共通点を持っています。次章では、こうした変化に対して防御側がどのようにAIを活用し、対抗しようとしているのかを見ていきます。
「AI vs AI」という発想―防御側のAI活用
攻撃者がAIを悪用して手口を高度化させている一方、防御側もまたAIを武器に対抗しようとしています。もはや人手だけでAIによる攻撃の速度やスケールに対抗するのは現実的ではなく、「AIにはAIで対抗する」という発想が、セキュリティ業界の共通認識になりつつあります。Palo Alto Networksもこの考え方を「サイバー攻撃への対策: AIでAIを制する」というテーマで整理しており、防御戦略の軸として位置づけています。ここでは、防御側がAIをどう活用しているのか、その考え方とメリットを整理します。
異常検知・振る舞い分析によるAI活用
従来のセキュリティ対策は、既知の攻撃パターンをシグネチャとして登録し、それに一致する通信やファイルを検知・遮断する方式が中心でした。しかし、AIを使って生成される攻撃コードやフィッシング文面は、既知のパターンから逸脱しやすく、シグネチャベースの検知をすり抜けやすいという弱点があります。
そこで注目されているのが、AIによる異常検知・振る舞い分析です。
- 通常時のユーザーやシステムの挙動をAIに学習させ、そこから外れる「いつもと違う動き」を検知する
- 未知のマルウェアであっても、ファイルの動作パターンから悪意の有無を推定する
- ネットワークトラフィックの微細な変化から、侵入の予兆を捉える
こうしたアプローチは、Fortinetが解説するように、既知の脅威だけでなく未知の脅威にも対応できる点が大きなメリットとされています。国内でもNECがAIを活用した未知のサイバー攻撃対策に早くから取り組んでおり、パターンマッチングに依存しない検知手法の確立が進められてきました。
SOC運用の自動化とインシデント対応の迅速化
セキュリティ運用の現場(SOC:Security Operation Center)では、日々大量のアラートが発生し、そのすべてを人手で確認・判断するのは現実的に困難になっています。ここでもAIの活用が進んでおり、以下のような効果が期待されています。
- 大量のアラートをAIが優先度付けし、対応すべき重大なインシデントを人間のアナリストに絞り込んで提示する
- 過去のインシデント対応履歴を学習し、類似事案への対応手順を自動的に提案する
- 初動対応(隔離・遮断など)の一部を自動化し、被害拡大までの時間を短縮する
ZscalerやIBMも、AIによるセキュリティ運用の効率化・自動化を主要なソリューション領域として位置づけており、限られた人員でも高度な脅威に対応できる体制づくりを支援しています。人手不足が慢性化しているセキュリティ人材の課題に対しても、AIによる自動化は現実的な処方箋の一つといえます。
攻撃を待たない「予測型・先回り型」の防御という考え方
防御側のAI活用でもう一つ重要なのが、「攻撃が起きてから対処する」のではなく、「攻撃が起きる前に予測し、先回りして備える」という発想への転換です。
具体的には、次のような取り組みが考え方として広がっています。
- 自社システムの脆弱性や攻撃対象領域(アタックサーフェス)をAIが継続的にスキャンし、優先的に対処すべき箇所を洗い出す
- 業界内で観測されている攻撃トレンドをAIが分析し、自社に及ぶリスクを事前にシミュレーションする
- 侵入を許すことを前提に、被害を最小化するための防御体制をあらかじめ設計しておく
Malwarebytesの解説にもあるように、AIはサイバーセキュリティにおいてリスクであると同時に、防御を強化する機会でもあるという両面性を持っています。国内ではNTTデータも、生成AIとサイバー攻撃の最新動向を踏まえた防御側の視点を発信しており、こうした予測型・先回り型の防御という考え方は、今後の企業のセキュリティ戦略において重要性を増していくと考えられます。
具体的にどのベンダー・サービスがこれらの考え方を実装しているかは、次のセクションで詳しく見ていきます。
代表的なAI活用型セキュリティ対策・サービス
「AI vs AI」という防御の考え方を実際の製品・サービスに落とし込んでいるのは、グローバルの大手セキュリティベンダーだけではありません。国内のベンダー・SIerも、それぞれの強みを生かした形でAIセキュリティへの取り組みを進めています。ここでは自社の対策検討の材料として、代表的な企業の取り組みを整理します。
グローバルベンダー系の取り組み(Palo Alto Networks・Fortinet・Zscaler・IBM)
グローバルのセキュリティベンダーは、いずれも「AIによる攻撃の高度化に対しては、AIを活用した防御でしか対抗できない」という共通認識のもとで製品開発を進めています。
- Palo Alto Networks:「サイバー攻撃への対策: AIでAIを制する」というコンセプトを打ち出しており、AIを悪用した攻撃の高度化・自動化に対して、防御側もAIを組み込んだセキュリティ基盤で対抗する必要性を訴えています。
- Fortinet:サイバーセキュリティにおけるAI活用のメリットや防御戦略、今後のトレンドを体系的に整理しており、脅威検知の高度化から将来的な自動対応まで、AIの活用範囲を段階的に解説しています。
- Zscaler:「AI時代のサイバーセキュリティについて」というテーマで、クラウド環境におけるゼロトラストアーキテクチャとAIの組み合わせによる防御力強化の方向性を示しています。
- IBM:AIサイバーセキュリティー・ソリューションとして、脅威検知からインシデント対応までを一気通貫でカバーするアプローチを提供しており、SOC運用の効率化を軸に据えている点が特徴です。
これら4社に共通しているのは、AIを「単なる検知精度の向上ツール」としてだけでなく、攻撃者の変化のスピードに追随するための防御基盤そのものとして位置づけている点です。製品選定の際は、自社が抱える課題(検知の見落とし、SOC人材の不足、クラウド環境の複雑化など)に応じて、どのベンダーの強みが合致するかを比較検討するとよいでしょう。
国内ベンダー・SIer系の取り組み(NEC・NTTデータ)
国内のベンダー・SIerも、独自の研究開発や実務知見をもとにAIセキュリティへの取り組みを進めています。
- NEC:NEC技報において「AI(人工知能)を活用した未知のサイバー攻撃対策」を発表しており、既知のパターンに依存しない未知の攻撃に対して、AIによる振る舞い分析を用いた検知手法を研究・実装している点が特徴です。
- NTTデータ:「サイバーセキュリティ最前線~サイバー攻撃×生成AIの最新動向~」として、生成AIの登場によって攻撃・防御の双方がどう変化しているかを整理しており、実務コンサルティングの知見に基づいた最新動向の発信を行っています。
国内SIer系の取り組みは、グローバルベンダーの汎用的な製品ラインナップに比べて、日本企業の業務システムや商習慣に合わせたカスタマイズ性・伴走型の支援に強みがある傾向があります。自社にセキュリティ専任の人材が少ない場合や、既存システムとの統合を重視する場合は、こうした国内SIerの導入支援サービスも比較対象に加えることをおすすめします。
いずれのベンダーを選ぶにしても、重要なのは「導入すれば終わり」ではなく、次のセクションで扱う社内体制の整備と組み合わせて初めて効果を発揮するという点です。
企業が今日から着手できるAI時代のサイバー攻撃対策
ここまでAIによる攻撃の手口や防御側の技術動向を見てきましたが、最終的に企業が今日から着手できることは、実はそれほど特殊なものではありません。ここでは、規模やIT予算に関わらず取り組みやすい4つのステップに整理してご紹介します。
IPAの公式ガイドライン・「AI利用者のためのセキュリティ豆知識」を社内教育に活用する
まず最初に手を付けやすいのが、公的機関が無償で公開している資料の活用です。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、同機構内に事務局を置くAIセーフティ・インスティテュート(AISI)とともに、2025年より有識者や業界団体を交えてAIセキュリティに関する検討を重ね、その成果として「AI利用者のためのセキュリティ豆知識」を公表しています。
この資料の目次には「AI仕込みのサイバー攻撃も撃退法は従来通り」という項目が含まれており、AIの基礎知識からAI利用時の最低限かつ有効性の高いセキュリティ対策までがコンパクトにまとめられています。特に注目したいのは、AIが絡む攻撃であっても、最終的な撃退法は従来のセキュリティ対策の延長線上にあるという視点です。これは、AIという新しい脅威に対して「何か特別な魔法の対策」が必要だと身構えている読者にとって、むしろ安心材料になるはずです。
実務的な使い方としては、資料本編はスライド形式のPDFとしてそのままダウンロードできるため、社内研修や新入社員向けオリエンテーションの教材にそのまま流用できます。独自にゼロから研修資料を作るよりも、公的機関のお墨付きがある資料をベースにする方が、社内説明の説得力も高まります。まずはこの資料を情報システム部門・総務部門で共有し、次回の全社セキュリティ研修に組み込むところから始めてみてください。
ゼロトラストと多要素認証(MFA)の強化
AIによって作られたフィッシングメールやなりすまし音声・動画は、人間の目や耳での見分けが年々難しくなっています。つまり「怪しいメールに気づく」という水際対策だけに依存するのは、これからのリスクに対して十分ではありません。
そこで重要になるのが、「侵入されることを前提に、被害を最小化する」という発想です。具体的には、社内外のあらゆるアクセスを都度検証するゼロトラストの考え方と、パスワードだけに依存しない多要素認証(MFA)の組み合わせが基本になります。仮にAIを使った巧妙なフィッシングでID・パスワードが漏えいしても、MFAが有効になっていれば不正ログインを防げる可能性が高まります。
すでにクラウドサービスやID管理ツールを導入している企業であれば、追加コストをかけずにMFAを有効化できるケースも多くあります。まずは自社が使っているシステムでMFAが有効になっているかどうかの点検から始めるのが、最も投資対効果の高い第一歩といえます。
従業員教育とインシデント対応体制の整備
技術対策と並行して欠かせないのが、人への投資です。AIが生成する文章や音声は、以前のような不自然な誤字脱字や機械的な口調が少なくなっており、従業員一人ひとりの「気づく力」を高める継続的な教育が必要になっています。
具体的には、次のような取り組みが実務レベルで有効です。
- 標的型メール訓練を定期的に実施し、疑わしい連絡への対応手順を体で覚えてもらうこと
- 経営層や取引先を名乗る不審な連絡があった場合、必ず別の手段(電話や対面)で本人確認を行うルールを社内に定着させること
- インシデントが発生した際の報告フロー・初動対応・エスカレーション先をあらかじめ明文化し、いざというときに誰が何をすべきかを迷わない状態にしておくこと
こうした体制は、AIによる攻撃かどうかに関わらず、従来型のサイバー攻撃対策としても有効です。特別なAI対策を新設するのではなく、既存のセキュリティ教育・インシデント対応マニュアルを「AI時代の巧妙な手口」を想定した内容に更新するというアプローチが、現実的かつ着手しやすい選択肢です。
外部の専門家・セキュリティサービスとの連携
自社だけでAIを悪用した攻撃の全体像を把握し、最新の防御技術を追い続けるのは、専任のセキュリティ人材を抱えていない企業にとって容易ではありません。そのため、社内の体制整備と並行して、外部の専門家やセキュリティサービスとの連携を検討することも現実的な選択肢になります。
異常検知やSOC運用の自動化といったAIを活用した防御技術については、グローバルベンダーや国内SIerが様々なソリューションを提供しています。自社の規模や業種に合ったサービスを比較検討し、監視・分析部分を外部の専門知見に委ねることで、限られたリソースの中でも防御レベルを維持しやすくなります。
まずは、本記事で紹介したIPAの公的資料を社内で共有し、MFAの点検、教育体制の見直し、そして必要に応じた外部連携という順序で、無理のないところから着手してみてください。
まとめ
AIはサイバー攻撃と防御の両方の武器として機能し始めており、フィッシング・BEC詐欺の高度化、ディープフェイクによるなりすまし、攻撃コードの自動生成、AIモデル自体への攻撃といった手口が広がっています。IPAの「情報セキュリティ10大脅威2026」でも「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が第3位に位置づけられ、対策強化の必要性が明確になりました。一方で防御側も、異常検知やSOC運用の自動化、予測型の防御にAIを活用し始めており、Palo Alto Networks・Fortinet・Zscaler・IBM・NEC・NTTデータなど国内外のベンダーがそれぞれの強みを生かした取り組みを進めています。まずはIPAが無償公開する「AI利用者のためのセキュリティ豆知識」を社内教育に活用し、MFAの点検、従業員教育の見直し、外部専門家との連携という順序で、無理のない範囲から着手してみてください。
// TOPICS


